・現在のミッテツヴァイト・

 ミッテツヴァイトは下図のような大陸の姿をしています。
 この大陸のみが、世界に唯一存在する大陸である(と言われている)ため、大陸に名はなく、ただミッテツヴァイトと呼ばれています。


                                                ヴァイラス
 現在のミッテツヴァイトは、深淵からの侵略者――侵魔の暗躍、その影響を受けて凶暴化する魔物たち、そしてそれらの事件とも無関係ではない国際緊張によって非常に不安定な情勢下にあります。
 この世界の悪を討ち、魂の聖なる事を鍛え上げつつ安寧を取り戻すのが、聖遺物の振るい手たるあなたたちの役割となります。

・メギスタン王国・


                                  マ ナ ク ラ フ ト
 北方に位置する雪原の国家です。魔導機器の発祥の地であり、数々の高名な魔術師・錬金術師を輩出する叡智の集う学び舎『奥義者の学院』を持つ事から、魔法王国などと呼ばれる事もあります。
 その気候ゆえ、かつては人々が生きていくのに苦しい環境であり、凍えと飢えに苦しむ貧しい小国でしかありませんでした。
 しかし今を遡ること約150年前、時の王の下にふらりと現れた男が、この国家を見かねてかあらゆる魔術の奥義を授けていったと言います。
 王はこれを気に魔術・錬金術により生活を支える事を強く奨励し出し、凍えを遠ざける暖房機器、飢えを凌ぐための食糧生産・貯蔵に関する魔導機器が数多く開発されていきました。このために集積された知識が後に『奥義者の学院』となり、それらの魔導機器を作り上げるための『大工房』が、今もなお一日たりとて休む事なく稼働しています。
 
 なお、メギスタンの特徴として、王権が非常に強力な絶対王政を敷いているという点が挙げられます。
 かつては冬が長く実り乏しく、個々人が自由でいられるほどの裕福さが無いゆえに、絶対者としての王が厳しく人を導かねば国家そのものが立ち行かないという困窮がありました。それゆえ自然と、王は絶対なる者として、人々に存続のための重労働を強いる存在でなくてはならなかったという経緯があります。
 今もなお王権が強いのは、その時代の名残もありますが――『奥義者の学院』には、実際に今のメギスタンを魔法王国と呼ばしめているだけの、実際に国家を動かすだけの実力者が揃っているから、という点があります。
 王はただの人であり、並み居る魔術師・錬金術師たちがこぞって叛旗を翻せば、たちどころにその権威を失うでしょう。それがゆえに、王は絶対なる者と刷り込まねば立場を維持できず、国家そのものの存亡に関わるという現実があるのです。
 しかし、これがゆえに王権と国家の実力者の相互監視が働き、互いの専横を許さず秩序を維持している面も存在します。
 
 余談となりますが、メギスタン王の即位式では『大工房』の総工房長によって大金槌を頭に、『奥義者の学院』の総長によって杖を心臓に、『大騎士』と呼ばれる建国王の側近に扮装したものによって剣を喉元につきつけられ、
『汝に王権を託す。しかして違えれば汝の命は我らとこの地の氷雪が奪い、汝の一族を永劫に呪うであろう』
 と宣告する独特の儀式があり、魔術師・錬金術師たちある限り国家は盤石であると考える風潮をうかがい知る事ができます。

・ストレンギア連合王国・


 北東に位置する山岳の国家です。メギスタン王国とは国境を接する位置にありますが、大陸最大の山脈であるエルダ山脈を挟んで気候は大きく変わり、乾いた大地が広がっています。
 農耕に適さないこの地では、20〜30年ほど前までは都市国家規模の小国や蛮族の集落が無数に存在し、狩猟や採集で日々の糧を得ながら暮らしている状態でした。
 しかし、飢えゆえの小競り合い、奪い合いが繰り返される中、一人の英雄が立ち上がったのが連合王国設立のきっかけでした。
 英雄の名はバーン・フェルエス。当時10台の若者でありながら異常なほどの巨躯を誇り、真紅に光る聖遺物の剣を携えた彼は、紅蓮神ソルディナスの現身のように崇められる事さえあり、その圧倒的な力とカリスマ性をもって北東の山岳地帯を統一。故郷ストレンギアを名に冠し、一代にして王国を築きあげました。
 しかし彼は統一し君臨したものの、併呑したはずの国々や村々を直接統治する事はありませんでした。庇護し、ささやかな税を取る以外は、おおむね統一以前と同じ統治者に治めさせるままとし、自らは紛争の調停と、平和の維持にのみ徹しています。
 
 今や40を過ぎた王は依然として黙し語りませんが、この覇王に長く仕える者はみな察しています。さまざまな種族や風習を持つ者たちの坩堝であるこの山岳地帯を治めるには、無理にひとつにまとめ上げるのではなく、それぞれを尊重していかねば従う者も無いであろう事。そして、一代の英雄が力でまとめ上げた結束は、より強大な力が襲いかかればたちどころに瓦解するであろうと王が理解している事を…
 それゆえにこの地方は『連合王国』を名乗り、王朝に税を納め、有事の際には英雄たる王の決断に従うと誓う以外は、個々の街々がおのおの自由に統治しています。
 未だ荒野の広がるこの地方は豊かとは言えませんが、その気風ゆえに人々は力強く誇り高く生きています。他民族国家であるゆえに人間族以外の人口も比較的多く、貧しさとは裏腹の活気に満ちていると言えます。
 
 しかし現在においては、ベイバロン帝国より皇太子暗殺未遂の嫌疑をかけられ、一触即発の緊張状態にあります。
 英雄王バーンはこの嫌疑を否定しつつも、帝国の軍備拡大の機運を警戒し、エルダ山脈の南端に傭兵砦を構え、状況を監視させています。

・フォルテニア王国・


 南東に位置する平原の国家です。五王国の中で最も温暖で湿潤な気候を持ち、穀類と羊毛、葡萄酒の生産量は大陸でも最大を誇ります。
 食料資源の豊富さはそのまま国家の富裕さとなり、それが生活の余裕を生んでか、芸術、学術においては他国と一線を画するものがあります。特に装飾品を作らせれば、職人の腕は他国と比べ物になりません。
 また南端に位置する副都、港湾都市デルシアは、海路を経由して運送されてきた各国の品々が入り乱れる、ミッテツヴァイト最大の交易都市として知られており、フォルテニアの貴重な財源ともなっています。
 その富裕ゆえに「神々に愛された国」などと呼ばれる事もあり、事実この国家は黎輝神ファリスティナを主神と定めた独自の宗教観による信仰を大切にしています。首都には神々を奉る大聖堂が配置され、女神を主神と考える解釈にあやかって代々女王政を敷いているという特徴があります。
 
 と、かように温厚な国柄のように見えますが、内部では穏やかならぬ部分もあります。
 まず、神々の教えを広め人々の安寧に尽くすという目的で創立された「大聖堂会」なる組織が存在します。
 その目的を見失ったわけではありませんが、その性質上、宗教関係の利権を一手に取り仕切る形となっており、また王権とも独立して行動しているため、しばしば権力者や資産家との間で贈収賄をはじめとした腐敗を起こしています。それに気づく者がいても糾弾できないのは、また法や職権などといった国家の基盤がしっかりとしているがゆえの弊害とも言えるでしょう。
 またミッテツヴァイト最大の軍隊に数えられる「神聖騎士団」も、国家正規軍とは別個の存在として大聖堂会の傘下に存在しています。聖遺物の回収と、邪悪なる者の討伐を目的とした軍隊ではありますが、その指揮・統制の権利は大聖堂会に与えられているため、しばしば一部の権力者による、専横と腐敗に満ちた利権を守るための道具として使われてしまう現実があります。……もっとも、邪悪との戦いで人々を守る存在である事も事実であるため、それを声高に指摘する人もまたいないのが現実ですが。
 
 なお、王国領土の東端部は、数年前に現れた『屍貴王』を名乗る侵魔によって蹂躙され、人の住めぬ腐敗した沼地と化しています。
 神聖騎士団とも協力し、国軍を率いて屍貴王の討伐を指揮した王兄シグルド・フェイム・フォン・フォルテニアが現在筆頭となって、この沼地の浄化手段を模索している状況にあります。

・ベイバロン帝国・


 大陸の中央部に巨大な領土を持つ軍事国家です。湿地や森林が多く、居住には本来不向きな土地を発祥の地とする国家でしたが、それゆえに治水・開墾・建築に関する技術が古くから研究されてきた事により、今日では大陸で最も質実剛健にして実利的な文明技術を誇っています。
 しかしその文化とは裏腹に、近年まで決して豊かな国家ではありませんでした。気候こそ湿潤ですが、農耕に適さない土地が少なからぬ割合を占める国土を持つため、経済的な潤沢は望むべくもなかったのです。
 
 この状況が変わったのは、先代にあたる第15代皇帝が即位してからの事です。先帝は、細々と蓄えを守りながら生き永らえる帝国の様を鑑みて、このままでは先細って行くだけだと考えました。そして、その状況を変えるべく行動を起こしたのです。
 それは、周辺国家への侵略でした。
 豊かでこそなかったものの、技術面においては大陸中央部でも先進国家であったベイバロンは、瞬く間に隣接する小国をいくつか平らげ、それらの国々の土地から得る収入によって大国への道を一気に上り詰めていったのです。
 しかし、先帝はあくまでも、自国を維持発展させられるだけの力を求めて侵略を実行に移したという経緯を忘れる事はありませんでした。農耕に適した土地を手に入れ、軍備も大陸随一となったこの国家をいたずらに拡大させようとする事はせず、その後は内政の充実にのみ力を注ぎ、他国に依存する事なく民が生活していける国を作り上げたのです。
 
 状況が変わったのはごく近年、先帝が崩御し、若き皇太子であったクラウディオ・ヴァイセ・フォン・ベイバロンが第16代皇帝として即位してからでした。
 新帝が即位して間もなく、国境を接するストレンギア連合王国からの刺客が新帝の命を狙って間者を送り込んだとの事件が発生します。
 ストレンギア側は嫌疑を否定し、この事件は何が真実であるのか証拠もないまま有耶無耶になって終わりましたが、これを機に両国の関係は一触即発の緊張状態になったのです。この事件以来ベイバロン帝国は軍拡の機運が高まり、剣呑な雰囲気が国内に漂い出しました。
 
 現在では国土・軍事力ともに大陸内最大の規模を誇っており、一説によると、ゆくゆくは五王国全てを手中に収めようとしていると噂されています。
 かの事件も、軍拡の名目を作ろうとした新帝クラウディオの策略であったとする声もありますが、真相は定かではありません。

・ヴェルトリウス立憲君主国・


 南西部の砂漠地帯に位置する国家です。肥沃とは言えない土地を持ち、ベイバロン帝国を挟んでメギスタン・ストレンギア・フォルテニアの三国とも領土的接点を持ちません。領土的価値が低いと見られた事を理由にベイバロン先帝時代から侵略の対象となってはいなかった事もあって、陸の孤島とも言っていい国家です。
 ミッテツヴァイト五王国の中では領土面積・人口共に最小の国家であり、経済的にも豊かではありません。
 しかし、聖遺物や旧ペルマナント時代の遺産を求めてこの地を訪れる者は少なくありません。フォルテニア聖王国の大聖堂会からも、聖遺物回収班が幾度となく訪れています。
 
 と言うのは、この国には旧ペルマナント文明の遺跡が数多く眠っており、少なからぬ遺跡が手つかずのまま、古代の神秘の技術を抱えたままになっているのです。
 その遺跡の数から、かつて旧ペルマナント文明の王都があった地方なのではないかと推察されています。隣国であるベイバロンは湿地帯が主要地形であるにも関わらず、この国は不毛の砂漠と化しているのも、かつて旧ペルマナント文明が滅亡を迎えた際に振るわれたという聖剣の力による破壊の影響なのではないかと言う者もいます。
                                                                     マ ナ ク ラ フ ト
 それら学説の真偽はさておき、この国の遺跡から発見されるさまざまな魔導機器が、この国の人々の生活の助けになっているのは事実です。
 灼熱の砂漠でありながら熱による死者が少ないのも、疫病に蝕まれないのも、不毛の地でありながら食糧の不足が起こらないのも、みな上古時代の遺産の恩恵である…と、この国を訪れた者たちは言います。
 しかし、それが国民の口から語られる事はありません。
 この国は永世中立国家である事を宣言しており、どの国とも積極的な国交を持っておらず、国内の情勢を語る事もよしとしません。国内の遺跡を他国民が探索する事は特に咎めない様子ですが、協力的である事も、敵対的である事も非常に稀です。
 
 このような風習がなぜ根付いたのかはようとして知られませんが、この国の王こそがその秘密を握っていると目されています。
 滅多に人と逢わないと言われるこの国の王は、少女のような姿の女王であり、王の座に就いたその時――少なく見積もっても数十年前からその姿を保っていると、ある者は語っています。
 かの女王は立憲君主制を提唱し、君臨すれども統治はせぬまま、ただ黙して語らず姿も現さず、その全容は旧ペルマナント文明時代の内実と共に謎に包まれています。

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